2016年−
「黄金町バザール2016」での展示風景
【ステイトメント】
自分独自の事情をきっかけとした傷を持ってして、多くの人はひきこもったり自殺をしてしまったりするのだと思う。 社会には多くの傷が生まれ続け、この世の人の数だけ傷の事情がある(一説には日本には約300万人のひきこもりと、年間約3万人の自殺者がいるという)。今傷ついていないという”自称強い人”も当然、老いて死ぬまでの間に必ず一度は弱り、そして傷つく。強者の論理はいつでも容易く聴くことが出来る。大きな声は耳をふさいでも届いてくる。そうではなくて、普段なかなか聴こえないボリュームの、か細き声を聴きたい。その聴力を持ち備えるきっかけとなる装置を作りたい。
本音を言えば、弱い自分が見殺しにされない社会を作るためでもあると思う。
”自称強い人達”が基準を作る社会は、住み心地悪そうだもの。
【解説】
今回、渡辺 篤は陶芸の伝統的な修復技法「金継ぎ」を応用し、コンクリートを用いた平面作品をインスタレーションしました。
コンクリートの板は渡辺の手によって一旦割られたのち、修復をされています。書かれている文章はどれも、渡辺のホームページでの募集を通じて、匿名の方々から送られてきた、実在する「傷」です。
東日本大震災の直前まで続いた、作者自身の深刻なひきこもり経験をテーマとした作品化をきっかけに、傷の昇華やとらわれ意識の克服についても提案をするこのアートプロジェクトは現在、外国語圏での展開も試みています。
隣の展示室では、会場で傷の投函をすることができます。投函された幾つかはピックアップをされ、会期中に作品化されます。
【「黄金町バザール2016—アジア的生活」開催概要】
2016/10/01ー11/06
横浜 黄金町にて
ウェブサイト
昔、違法風俗店が数百件建ち並んでいた街、黄金町。
一斉摘発後にゴーストタウン化した街の再生を目指すアートイベント「黄金町バザール」。
ゲスト参加し、かねてから継続しているプロジェクトを展示した。
<展示室外観>
(左:展示室B/ 右:展示室A)
<展示室A>(右入口)
展示風景 : 《プロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」》2016年/コンクリートに金継ぎ、塗料/サイズ可変
修復された金色のひび割れが別のコンクリート板と繋がっていく。
<展示室B>(左入口)
会場内に作業場をインスタレーションした。作業台は、特殊飲食店(違法風俗店)だった名残のカウンターを延長して制作。映像モニターは既存の酒の棚にはめ込み、ドキュメントムービーを上映。
それまでインターネットで募集していた”心の傷”。会期中は会場内に設置した郵便受けにも直接投函出来るようにした。投函された心の傷のストーリーの幾つかは会場で制作され、その模様はテレビ番組のドキュメンタリーでも放送された。
《ドア》2016年/コンクリートに金継ぎ、塗料
《セルフポートレート》2016年/コンクリートに写真転写して金継ぎ、塗料
《鏡》2016年/コンクリートとガラス鏡に金継ぎ、塗料
写真 : 井上桂佑
《「あなたの傷を教えて下さい。」ドキュメントムービー》
2016年
撮影/編集 : 井上桂佑
撮影地 : 横浜 黄金町
ビデオ(インスタレーションの一部として上映)
08分57秒
【主要関連情報】
【展示会場作品配置図/作品リスト】
【制作協力】
安西彩乃、中村元哉、田原迫華、中村雅奈、高橋莉子、高野樹子、甲方みのり、佐藤奈希、鎌田 昇、岡田伸子、若榮沙耶、和田修次、石川貴大、安田拓郎
【撮影/編集】
井上桂佑
【協力】
匿名の投稿者の人たち、三宅里奈、渡辺政子、佐々木 スミコ、スザンヌ・ムーニー、李 智希、清水恵美、高橋広忠、大橋弘明
横浜市芸術文化振興財団、黄金町バザール(順不同)
【Special Thanks】
天野太郎